断捨離パワーの不思議!


父は物を捨てられない人で、知り合いの店で買い物をしては自分の部屋にため込んでいました。勧められると使わなくても買ってしまうので物がどんどん増えて、部屋は足の踏み場もなくなり、肩の高さまで物が積み上げられて危ない状態になっていました。でも父は疑い深くて誰も部屋に入れてくれなかったので、なかなか片づけることができませんでした。

父の認知症の症状が出始めたある日のこと、母から電話があり、「お父さんが夜中に叫んだり大きな音を立てたりして、怖いし眠れないし、大変だよ。」と訴えてきたのです。私も心配になって父に聞いてみると、「夜になると怪しい人が部屋に入って騒ぐから、追い払っているんだよ。」と言い張って、私たちの話を聞こうとしません。幻視幻聴の症状です。

今の状態では父も母も眠れなくて体を壊してしまいます。私は、何よりも父の部屋をきれいにすることが先だと思いました。片付けられずに物が溢れている場所はエネルギーの状態が悪くなり、そこにいる人にも影響すると思っていたからです。「とにかく父の部屋を片づけよう。」と決意し、片づけをいやがるであろう父のために策を練りました。

すぐに浮かんだのが私の娘です。父は娘には甘いので、娘がいれば怒ったり邪魔をしたりしないだろうと思って、娘を前面に出して片づけることにしました。娘に「おじいちゃんの部屋、いろんな物があって楽しいね。」「部屋がせまいから片づけるね。」「掃除してきれいにするね。」などと言ってもらい、まず部屋に入ることに成功しました。そして父には居間で休んでもらい、片づけを始めました。

父は私と娘が何をしているのか気になるらしく、何度も部屋を覗きこむので、時間は30分ぐらいから始めて少しずつ延ばすようにしました。私と娘が片づけに夢中になって時間が長引くと「いつまでいるんだ。もう出なさい」と怒られることもありました。そんなときはしばらくおとなしくしていて、父の機嫌が直った頃を見計らって、また片づけを始めるということをくり返しました。

娘は「おじいちゃんの部屋」が珍しいらしく、片づけを楽しんでいました。子供にとっては面白い掘り出し物がたくさんあるようで、気に入った物を父からもらっては喜んでいました。父も娘が喜ぶのが嬉しいらしく、私たちの片づけを嫌がることがなくなりました。

出てきた物を処分するのが一番大変でした。いっきに物がなくなると処分したことに気づかれてしまうので、少しずつ袋に詰めて父に見つからないように窓から出して安全な場所に置いておき、ゴミ収集日に何回かに分けて出しました。しばらくすると、父も私と娘が部屋に入るのに慣れてきて何も言わなくなったので、片づけがはかどるようになりました。その頃から、時々母から「お父さん、昨日はぐっすり眠って静かだったよ。」と報告が来るようになりました。

二か月ぐらいたって部屋がだいぶすっきりした頃です。母が「もう夜中の叫び声も大きな音も聞こえなくなったよ。今はよく眠れるよ。」と嬉しそうに言ってきたのです。自分で思い立って始めたものの、こんなに上手くいくとは思ってなかったので、半信半疑ながらも、母と一緒に喜んだのを覚えています。それから父の奇行がぶり返すことはありませんでした。さらに、短気だった父がそれからだんだんと穏やかになったのも不思議なことでした。

私は予想以上の結果になったことに驚きながら、この体験でますます断捨離パワーの不思議な力を確信することになりました。